温泉に入った後の空腹は、特別だ。

体が温まり、血行が良くなり、体中の細胞が「食べたい」と叫んでいる——そんな大げさな表現がしたくなるほど、湯上がりの食欲はリアルだ。そしてその欲求に応えてくれるのが、温泉地ごとに育まれてきたご当地グルメだ。今回は、これまで訪れた温泉地で出会った「湯上がりグルメ」の中から、特に印象に残った10品を紹介したい。

1. 温泉まんじゅう(草津温泉・群馬)

温泉地のグルメといえば、まず外せないのが温泉まんじゅうだ。草津の温泉まんじゅうは、黒糖の香りが利いた薄い皮に、甘すぎないこしあんが入っている。湯上がりに立ち食いする一個200円のまんじゅうは、どんな高級菓子にも劣らないおいしさだ。「蒸したて」を売りにしている店もあり、皮がふかふかで口の中でとろける。

2. 玉こんにゃく(山形県・各温泉地)

山形に行くと必ずといっていいほど見かける「玉こんにゃく」の屋台。タレは甘辛い醤油ベースで、こんにゃくがよく染みている。串に刺さった小ぶりな玉を2〜3個、温泉上がりにほおばる。カロリーが低く、温泉の後に食べても罪悪感がないのも嬉しい。蔵王温泉や上山温泉の周辺でよく見かける。

3. 黒たまご(箱根・大涌谷)

大涌谷の火山ガスで殻が黒く染まった「黒たまご」は、箱根観光の定番だ。「一個食べると7年長生きする」という言い伝えがあり、温泉旅のゲン担ぎにもなっている。塩味のシンプルな茹で卵だが、ここで食べることに意味がある。露天で食べる大涌谷の黒たまごは、環境も含めておいしい。

4. 地獄蒸し料理(別府温泉・大分)

別府では高温の蒸気(地獄蒸し)を調理に活用した料理が食べられる。野菜、魚介、鶏肉などを温泉の蒸気で蒸し上げるシンプルな調理法だが、素材の旨味が凝縮される。日帰りで別府を訪れる際は、「地獄蒸し工房 鉄輪」で食材を持ち込んで自分で蒸す体験もできる。

「ここでは食材そのものが主役。余計な味付けは何もいらない」

5. ほうとう(山梨・下部・甲府)

山梨の温泉地に行ったら「ほうとう」を食べたい。かぼちゃと幅広の不揃いな麺を味噌汁で煮込んだ郷土料理で、体の芯から温まる。温泉で体を温め、ほうとうでさらに温める——冬の山梨での最強の過ごし方だ。下部温泉や石和温泉周辺の食事処でよく出てくる。

6. 温泉湯豆腐(城崎温泉・兵庫)

城崎温泉は街全体が温泉地として設計されており、外湯めぐりが有名だ。その城崎のご当地グルメとして「温泉湯豆腐」がある。温泉水で豆腐を炊いたもので、豆腐がほんのりと温泉の成分を吸って柔らかくなり、独特の風味が生まれる。シンプルな料理ほど、素材と水が語る。

7. 乳頭温泉の山菜料理(秋田・乳頭温泉郷)

乳頭温泉郷の周辺では、山菜を使った郷土料理が食べられる。「鶴の湯」の日帰り食事プランでは、山菜の天ぷらや山菜ご飯が提供される。秋田の山菜は春先が旬だが、保存加工されたものは年間を通じて楽しめる。茅葺きの建物の中で食べる素朴な山菜定食は、この場所でしか味わえないものだ。

8. 野沢菜の炒め(野沢温泉・長野)

野沢温泉の外湯めぐりの後に食べたい、野沢菜の炒め。シャキシャキとした食感と、ほのかな辛みが温泉上がりの体に心地よい。ご飯のお供としても、酒の肴としても優れている。温泉地の食堂で定食の一品として出てくることが多い。地元で獲れた野沢菜を使った漬物は、お土産にも向いている。

9. スープ入り焼きそば(塩原温泉・栃木)

那須塩原・塩原温泉のご当地グルメは「スープ入り焼きそば」だ。汁あり焼きそばで、具だくさんのスープに中細の焼きそば麺が入っている。温泉街のいくつかの食事処で提供されており、スパイシーなソースが後を引く味だ。温泉で体を温めた後、温かいスープで仕上げるというの理にかなった食べ方だと思う。

10. 温泉卵かけご飯(各地)

最後は地味だが最強の湯上がり飯——温泉卵かけご飯だ。多くの温泉地の食堂では、その施設の源泉で作った温泉卵を提供している。源泉の温度や成分によって仕上がりが異なり、同じ「温泉卵かけご飯」でも場所によって全く違う体験になる。シンプルだからこそ、その差がはっきりとわかる。


温泉地の食は、その土地の文化と風土が凝縮されている。湯だけでなく、食まで楽しんで初めて「その温泉地を知った」と言えるのかもしれない。次の温泉旅では、湯の後に何を食べるかも計画に入れてみてほしい。