新宿を6時台の小田急ロマンスカーに乗る。
車内はビジネスパーソンと、私のような物好きな温泉愛好家が半々くらいだった。窓の外はまだ薄暗く、相模川を渡る頃にようやく空が白み始める。箱根湯本に着く頃には、山の端がオレンジ色に染まっていた。
平日の朝に箱根の日帰り温泉を訪れることには、はっきりとした理由がある。人が少ない。富士山が見えやすい。そして、なんといっても「もみじの湯」や「小涌谷エリア」の施設が静かに過ごせる時間帯だからだ。土日の午後に箱根を訪れると、露天風呂は順番待ちになることもある。でも平日の朝10時前後は、まるで貸し切りのような静けさが待っている。
箱根温泉の多彩な泉質
箱根温泉は「20もの源泉地を持つ」と言われる、日本有数の温泉地だ。エリアによって泉質も異なり、湯本周辺は単純温泉が多いのに対し、大涌谷に近い仙石原・小涌谷エリアでは硫黄泉が楽しめる。芦ノ湖周辺では塩化物泉も湧出している。「箱根の湯」と一口に言っても、それぞれに個性があるのが面白い。
この日は仙石原のホテルが提供する日帰り入浴プランを利用した。大人1,500円で、内風呂と露天風呂が使える。タオル付きだから手ぶらで行けるのも嬉しい。
雲の切れ間の富士山
露天風呂のある棟に向かうと、東の空に富士がうっすらと見えていた。雲がかかっていたが、その隙間から山頂の白い雪が覗いている。
「見えた」——その瞬間、不思議とため息が出た。
露天の縁に体を預け、富士の方角を眺める。完全に見えているわけではない。でも、あの山が「そこにある」という確かな存在感だけで十分だった。弱酸性の硫黄泉に体を沈めながら、ぼんやりと雲の動きを追う。風が吹くたびに雲が動き、山肌が少し見えたり隠れたりする。そのたびに、小さく興奮した。
気づけば1時間近く露天風呂にいた。周りに人が来たのは一度だけで、すぐに出ていった。ほとんど貸し切りで富士山を眺めながら温泉に浸かるという贅沢を、平日の朝だけが許してくれる。
箱根湯本駅周辺の朝ごはん
入浴後、バスで箱根湯本に戻り、駅前の食事処で早めの昼ごはんを食べた。山菜そばと温泉まんじゅう2個。シンプルなメニューだが、温泉上がりの空腹には最高だった。観光客で混む昼前の箱根湯本は、まだ落ち着いた雰囲気で、商店街をゆっくりと歩けた。
箱根の日帰り温泉は施設によって「日帰り入浴不可」の日が設定されていることがある。特にリゾートホテルや旅館では、宿泊客が多い週末は日帰りNGになる場合が多い。事前にウェブサイトや電話で確認することを強くすすめる。せっかく足を運んだのに入れない——という経験を、私も一度した。その教訓から、必ず確認するようになった。
平日朝を選ぶ理由
結論として、箱根の日帰り温泉を最高の状態で楽しみたいなら「平日の午前中」一択だ。混雑を避けられるだけでなく、富士山が見える確率も高い(午後になると靄がかかることが多い)。体が温泉で整った状態で、東京に戻る電車に乗る——その爽快感は週末の疲労とは全く違う種類の充実感をもたらしてくれる。
次は2月の澄んだ冬空の日を狙って、また来よう。今度は大涌谷に近いエリアで、硫黄の匂いが強い湯に入ってみたい。