秋の塩原渓谷は、歩いてこそ本物だと思う。
11月の初旬、那須塩原を訪れた。目的は二つ——渓谷のトレッキングと、その後の温泉だ。東北新幹線で那須塩原駅まで約80分。そこからバスで塩原温泉郷へ向かう。バスが山道に入ると、車窓の両側に紅葉した木々が迫ってくる。オレンジと赤と黄色が複雑に絡み合い、渓谷の上に屋根のようにかかっていた。
塩原渓谷遊歩道を歩く
塩原渓谷には「塩原渓谷遊歩道」と呼ばれる整備された遊歩道が通っている。箒川(ほうきがわ)に沿って5〜6km、アップダウンは少なく、スニーカーでも歩けるコースだ。
「もみじラインバス停」で降り、渓谷沿いの道を歩き始めた。落ち葉が積もった道は、踏むとふかふかとした感触がある。川の音が左から右に変わったりしながら、ずっとついてくる。箒川は澄んだ水で、底の岩がくっきりと見える。時々魚が跳ねた。
「回顧の滝」への分岐に差し掛かった。吊り橋を渡ると、眼下の渓谷が一望できる。落差30mの滝は、この時期は水量が多く、飛沫が風に運ばれてくるほどだ。滝の音と紅葉の色彩の中で、しばらく立ち尽くしてしまった。自然の演出は、どんな人工的な美しさも敵わない。
「ここは、1年に一度しかこの色にならない。その一瞬にたまたま居合わせた奇跡が、山歩きの醍醐味だ」
歩いた後の温泉——「塩原元湯温泉」
2時間ほど歩いて体が温まった頃、「塩原元湯温泉」エリアへ向かった。塩原には複数の温泉ゾーンがあるが、元湯は最も山奥にあり、歴史も古い。バス停から少し歩いたところに、数軒の旅館が集まっている。
「大出館」という旅館の日帰り入浴を利用した。ここには珍しい「墨の湯」がある。真っ黒な温泉だ。硫化水素とナトリウムを含む含硫黄ナトリウム塩化物強塩泉が黒く見えるのだという。透明な湯しか見てこなかった目には、衝撃的な光景だった。
「本当に黒い」——最初に見たとき、思わず声が出た。肌の見えないほど不透明な黒い湯に体を沈めると、不思議とリラックスしてくる。成分が濃いのだろう、体が重く、じわりと溶けていくような感覚がある。山歩きで固まった脚の筋肉が、少しずつほぐれていく。
内湯のほかに混浴の露天もあったが、この日は利用者が多く、内湯だけで十分満足した。黒い湯から上がると、肌がすべすべして、塩気のある成分が皮膚をコーティングしているような感触がある。これが保温力の高い塩化物泉の特徴だ。湯上がりから2時間後でも、じんわりと体が温かかった。
塩原名物「スープ入り焼きそば」
温泉を出た後は、塩原温泉街の食事処で夕方の早い時間に食事を取った。塩原のご当地グルメ「スープ入り焼きそば」は、その名の通り汁あり焼きそば。具だくさんのスープに焼きそばの麺が入った温かい料理は、体を冷やしたくない温泉上がりにぴったりだった。
那須塩原には、温泉だけでなく渓谷トレッキングという別の楽しみが重なっている。歩いた後の温泉は、普通に訪れる温泉より体に染み入る。疲労感と解放感が合わさって、温泉の満足度が倍になる感覚がある。
秋の塩原は、またひとつ「また来たい場所」のリストに加わった。次は春の新緑の時期に来てみたい。同じ渓谷が、全く違う顔を見せてくれるに違いない。