岩手県は、日帰り温泉の当たり外れが少ない県だと思う。奥羽山脈沿いに秘湯が点在し、宮沢賢治ゆかりの湯治場が今も現役で営業し、三陸の沿岸には震災から復興した温泉もある。県土が広い分、同じ「岩手の温泉」でも山と海でまったく違う顔を見せてくれるのが面白い。

今回は、内陸の秘湯から沿岸のいで湯まで、実際に足を運んで印象に残った10軒を選んでみた。順位というより「岩手を代表する10のタイプ」として読んでもらえたら嬉しい。

1. 国見温泉 森山荘(雫石町)

秋田県境、秋田駒ヶ岳の南麓にひっそりと湧く国見温泉 森山荘。二酸化炭素と鉄・アルミニウムを含む硫酸塩泉で、湯船を満たす鮮やかなエメラルドグリーンは一度見たら忘れられない。pHは7.0とほぼ中性で、見た目の強烈さの割に肌当たりはやさしい。営業期間は5月上旬から11月中旬までの雪のない季節限定で、この「一年中入れない」希少性も秘湯らしさを際立たせている。

2. 松川温泉 峡雲荘(八幡平市)

八幡平の山中、松川地熱発電所のほど近くに建つ松川温泉 峡雲荘。硫黄を含むカルシウム・ナトリウム-硫酸塩泉が乳白色に湯船を満たし、内湯と露天の両方でその濁り湯を堪能できる。同じ松川温泉には松川荘や松楓荘も並んでいて、泉質はほぼ同じでも宿ごとに湯船の造りや雰囲気が違うので、はしごして比べてみるのもおすすめだ。

3. 夏油温泉 元湯夏油(北上市)

北上市街から車で約50分、冬期は道が閉ざされる山奥に湧く夏油温泉 元湯夏油。ナトリウム・カルシウムの塩化物・硫酸塩泉が55℃強で湧き出し、渓流沿いの混浴大露天風呂は開放感が段違いだ。女性専用の露天風呂も別に用意されているので、混浴に抵抗がある人でも安心して楽しめる。営業は例年11月中旬から5月中旬まで冬期休業になるため、訪れるなら雪解けからの季節を狙いたい。

4. 網張温泉 仙女の湯(雫石町)

休暇村岩手網張温泉の本館から山道を7分ほど登った先にある網張温泉 仙女の湯。乳白色半透明の硫黄泉が沢のほとりの野天風呂に満ちていて、脱衣小屋こそ男女別だが湯船は混浴という、岩手の秘湯の中でも特に「歩いてたどり着く」感覚を味わえる一湯だ。営業はグリーン期(5月中旬〜11月中旬)のみ、受付も14時までと短いので、午前中の訪問を計画したい。同じ敷地内には内湯タイプの網張温泉館やありね山荘もあり、まずは本館で温まってから山道を登る、という組み合わせ方もできる。

5. 川尻温泉 ほっとゆだ(西和賀町)

JR北上線「ほっとゆだ駅」の構内に、そのまま日帰り温泉が併設されているのが川尻温泉 ほっとゆだ。「温泉つきの駅」として鉄道ファンにも知られていて、電車の待ち時間にひと風呂浴びられる立地が最大の武器だ。当日券440円という手頃さに加え、貸切風呂や足湯も備え、西和賀町を車なしで巡る旅の拠点としても使いやすい。

6. 金田一温泉 割烹旅館おぼない(二戸市)

県北、二戸市の金田一温泉郷にある金田一温泉 割烹旅館おぼない。低張性弱アルカリ性の単純温泉で、pH8.0・源泉温度33.4℃というぬるめの湯が特徴。男性用の「長寿の湯」と女性用の内湯に分かれ、加温はしつつも源泉のやわらかさが残る仕上がりだ。同じ金田一温泉郷にはきたぐに旅館や仙養舘、スパドームなど日帰り入浴できる宿が集まっているので、駅から徒歩圏で湯めぐりができる県北の穴場エリアでもある。

7. 花巻温泉 ホテル花巻(花巻市)

花巻温泉郷の老舗ホテルが2024年11月に新設したのが、花巻温泉 ホテル花巻の庭園露天風呂「花巻満天の湯」。大浴場「花巻の湯」に加え、地下には貸切風呂も4室備え、老舗ならではの設備投資の厚みを感じる一軒だ。平日と土日祝で料金が変わる仕組みなので、狙うなら平日がお得。

8. 大沢温泉 山水閣(花巻市)

同じ花巻でも、湯口地区の大沢温泉 山水閣は昔ながらの湯治場の空気を色濃く残す一軒。炭酸水素塩泉、pH7.1・43℃の湯が内湯と混浴露天風呂の両方で楽しめ、宮沢賢治もこの一帯を歩いたとされる湯治場情緒が漂う。ホテル花巻の近代的な庭園露天とはまったく違う体験になるので、花巻を訪れるなら新旧2軒を対比させて回ってみるのも面白い。

9. 姫神温泉 ユートランド姫神(盛岡市)

盛岡市玉山区にある姫神温泉 ユートランド姫神は、低張性弱アルカリ温泉の大浴場が「岩手富士」(岩手山を望む西向き)と「姫神」(姫神山を望む東向き)の2種類に分かれているのが最大の特徴。男女入れ替え制なので、日を変えて訪れれば両方の山を見る湯を体験できる。盛岡市街からも東北自動車道滝沢ICから車で約30分とアクセスしやすく、市内から気軽に足を延ばせる一軒だ。

10. 大船渡温泉(大船渡市)

内陸の山あいの湯が続いたところで、最後は三陸の海辺へ。大船渡温泉はナトリウム・カルシウムの塩化物泉を、海を望む展望大浴場と露天風呂で楽しめる沿岸部の一軒だ。敷地内には無料の足湯「復興の湯」もあり、震災からの歩みを静かに伝えている。三陸沿岸道路大船渡ICから車で約10分というアクセスの良さもあって、内陸の秘湯巡りとはまったく違う「海を見ながら入る岩手の湯」を締めくくりにふさわしい一湯だと思う。


奥羽山脈の秘湯から三陸の海辺まで、県土の広さがそのまま湯の多様性になっているのが岩手の面白さだ。今回選んだ10軒はほんの入り口で、雫石の鶯宿温泉郷や八幡平温泉郷、金田一温泉郷など、1エリアだけでも一日では回りきれないほど湯が集まっている場所がまだまだある。まずは気になった一湯から、岩手の温泉巡りを始めてみてほしい。