国道254号は、東京都文京区の本郷三丁目交差点を起点に、練馬・和光・川越・東松山・深谷・本庄を抜け、群馬県内山峠を越えて長野県佐久・上田を通り、松本市平瀬口交差点まで至る全長約280kmの一般国道だ。「川越街道」など区間ごとに呼び名が変わり、道の表情も都市部の街道筋から山あいの峠道まで大きく移り変わる。
この道沿い、あるいはインターや駅から少し足を延ばした先には、日帰りで入れる温泉が点在している。本郷を出て松本までを一本の線でつなぐつもりで、沿線の湯と寄り道の湯をルート順に並べてみた。まずは全体像を、簡単な略図で確認しておこう。
東京都内:練馬・板橋エリア
起点の本郷三丁目からしばらくは都心の街道筋が続く。「川越街道」区間に入る板橋区まで来ると、少し寄り道した先の前野町に前野原温泉 さやの湯処がある。地下1,500mからの源泉かけ流しで、和風庭園を望む露天が23区内では貴重な一軒だ。練馬区に入ると豊島園 庭の湯もある。旧・としまえん跡地に隣接する炭酸水素塩泉の施設で、ドイツ式のバーデゾーンを備えるなど都内でも指折りのクオリティ。都内スタートでどちらかに一湯、という贅沢な選択肢だ。
埼玉県:和光・志木エリア(寄り道圏)
国道が埼玉県に入ってすぐの和光市には、道からわずかに外れた場所に黒湯の極楽湯 和光店がある。地下1,000mから湧く高張性の塩化物泉はコーラ色に近く、都内から最も近い本格黒湯のひとつ。同じ和光市駅前には自家源泉を持つおふろの王様 和光店もあり、飲み比べならぬ「入り比べ」も面白い。
もう少し北の志木市まで寄り道すれば、市内唯一の天然温泉おふろの王様 志木店がある。東上線沿線に住む人なら仕事帰りの一風呂にも使える立地だ。時間に余裕があれば、多摩エリア最大級のスーパー銭湯スパジアムジャポン(東久留米市)まで足を延ばすルートも考えられる。
埼玉県:富士見・ふじみ野・所沢エリア(寄り道圏)
国道が富士見市を抜けるあたりで少し西へ足を延ばすと、ふじみ野市の天然温泉 真名井の湯 大井店がある。和風の落ち着いた造りの露天で、地下1,300mの弱アルカリ性単純泉をのんびり楽しめる。
さらに西の所沢市南永井まで寄り道すれば、埼玉スポーツセンター天然温泉 みずほの湯がある。茶褐色に濁る源泉を上下二段の露天で行き来しながら入れるのが面白く、ボウリングやフットサルなど併設スポーツ施設も充実。みずほ台駅から無料送迎バスも出ているので、車がなくても訪れやすい。
埼玉県:川越エリア
国道254号は「川越街道」の名の通り、川越市を貫いて走る。市内には小さな旅 川越温泉と蔵の湯 小江戸はつかり温泉の2軒があり、どちらも地下1,000m超から湧く塩化物泉。前者は源泉高濃度炭酸風呂、後者は名物「ざぶーんの湯」が売りで、蔵造りの街並み散策と組み合わせやすい。
埼玉県:東松山・ときがわエリア
川越を抜けると国道は東松山市へ。蔵造り風の建物が目印の野天風呂 蔵の湯 東松山店は、微黄白濁の強塩泉を源泉かけ流しで楽しめる沿線屈指の実力派だ。やきとりの街として知られる東松山らしく、名物の辛味噌やきとりと湯をセットにするのが地元流。
西へ寄り道してときがわ町まで行くと、館内まるごと昭和レトロを再現した玉川温泉がある。pH10.1の強アルカリ泉はつるつるの美肌の湯で、土日は朝5時開店という早朝湯も魅力だ。
埼玉県:深谷・本庄エリア
深谷市に入ると、雑木林に囲まれた里山風情の深谷花園温泉 花湯の森が沿線にある。花園アウトレットの帰りに寄る客も多い、落ち着いた一湯だ。
本庄市の少し北、神川町まで寄り道すると、神流川沿いのレジャーパーク内にある天然温泉 かんなの湯と、関東有数の濃度を誇る赤褐色の強塩泉おふろcafé 白寿の湯が近距離に並んでいる。同じ神川町でも泉質がまったく異なるので、2軒はしごして「浸かり比べ」をするのもこのエリアならではの楽しみ方だ。
群馬県:藤岡・富岡・下仁田、そして内山峠
群馬県内では藤岡市、富岡市、下仁田町と抜けていく。下仁田名物のこんにゃくやねぎを求めて立ち寄る人も多い区間だが、このあたりは今のところ本サイトで扱える日帰り温泉の登録がなく、いわば「温泉の空白区間」だ。下仁田を過ぎると道は内山峠へと上り始める。1989年に内山道路が全線開通してから走りやすくなったとはいえ、峠道であることに変わりはなく、冬季は積雪・凍結への備えが要る区間。ここを越えると長野県に入る。
長野県:上田エリア
内山峠を下り佐久市を経て上田市に入ると、国道沿いから少し山側に分け入った先に信州を代表する名湯が控えている。鹿教湯温泉の共同浴場文殊の湯は、5つの源泉を混ぜて湯もみで仕上げる鄙びた一軒。別所温泉の共同浴場大師湯は、弘法大師ゆかりの信州最古の温泉地で、入浴料300円という気軽さも魅力だ。どちらも国道からは寄り道になるが、ここまで走ってきたなら外せない2軒だろう。
長野県:松本エリア(ゴール)
上田から三才山トンネル(2020年に無料化)を抜ければ、終点の松本市はもう目の前だ。奥座敷・浅間温泉にあるホットプラザ浅間は、松本城観光や上高地・アルプス方面の行き帰りに立ち寄る客も多い公共入浴施設。単純温泉のさっぱりとした湯で、長かったドライブの疲れを洗い流して旅を締めくくりたい。
本郷三丁目から松本まで、国道254号は都心の街道筋、武蔵野の郊外、上州の峠道、信州の山里と、走るごとに景色を変えていく。全線を一気に走破するのは骨が折れるが、区間を区切って「沿線の湯」と「寄り道の湯」を組み合わせれば、週末ドライブのテーマとしても十分に楽しめるはずだ。