野沢温泉村は、温泉文化の「本物」を見せてくれる場所だ。
長野市から車で1時間ほど、飯山市を抜けた先の山あいに、その村はある。スキー場として知られる野沢温泉だが、訪れる目的は温泉だった。ここには「外湯」と呼ばれる13か所の共同浴場がある。村人の財産として代々管理されてきたこの湯は、観光客も無料で入浴できる(ただし「湯仲間」として、寄付を入れる箱が置かれている)。
午前9時、まず最初に「大湯」へ向かった。
「大湯」——外湯の中心にして最大の湯
野沢温泉の外湯の中で最も広く、観光客にも知られているのが「大湯」だ。温泉街の中心部に位置し、立派な切妻屋根の建物は温泉旅館と見紛うほどの風格がある。
内部に入ると、熱めの湯と少しぬるめの湯、2つの浴槽が並んでいる。熱めと言っても44〜45℃はあろうか。地元のおじいさんたちが平然と入っているのを見て、少しひるんだ。縁に手をついて少しずつ沈み込む。数秒で体が赤くなる感覚。でも不思議と、1分もすると慣れてくる。
泉質は含石膏・食塩硫化水素泉。少し白濁した湯は、肌にじんわりとなじんでいく。ここの湯は源泉かけ流しで、加水も加温もされていない。投入された源泉がそのまま浴槽に満ちているのだから、熱いのは当然だ。
13か所をめぐる「外湯巡り」の楽しみ
大湯を出た後、地図を手に村を歩いた。外湯は大きく分けて「温泉街の中心部」「山手」「外れ」の3エリアに散らばっている。それぞれに個性があって、巡ることが一種の探検になる。
「河原湯」は、川のすぐそばにある小さな湯小屋。観光客はほとんど来ず、地元の方が2〜3人、静かに談笑しながら入っていた。「熊の手洗い湯」は、やや山手にあって少し歩くが、その分空いていて穴場だ。「滝の湯」は名前の通り、岩の間から流れ落ちる湯が印象的で、温泉施設というよりも自然の恵みに近い形で湧き出ている。
「無料で入れる、ということより、村の人の財産をお借りしているという感覚がある」
4か所目を出た頃、足が疲れてきた。でも不思議と体はぽかぽかで、歩くことが苦にならない。温泉で温まった体は、少し歩いてもすぐに次の湯に入りたくなる。外湯巡りは、温泉と歩行のリズムで一日が進んでいく。
野沢菜漬けと温泉まんじゅう
午後1時頃、温泉街の食事処で昼ごはんを食べた。野沢菜の炒め物と、村内の製麺所の手打ちそば。野沢菜はシャキシャキで、ほのかに辛みがある。「野沢温泉の野沢菜漬けは、この地の温泉水で洗うから美味しい」という説を聞いたことがある。本当かどうかはわからないが、確かに他の地域の野沢菜とは違う風味があった。
温泉まんじゅうは3個100円という昭和の価格。皮が薄く、中はこしあんぎっしり。湯上がりに食べると、お腹に優しく収まる。
外湯を守る村の仕組み
野沢温泉の外湯は、村の自治組織「野沢温泉村温泉組合」が管理している。観光客は入浴料を払わなくてよいが、入り口に設置された「寸志箱」への寄付が慣習となっている。これは明文化されたルールではなく、村の文化として受け継がれてきたものだ。
観光地化が進む温泉地で、この「お互いの信頼に基づく仕組み」が今も機能していることに、深く感動した。訪れる側として、この文化を大切にしたいと思う。外湯を利用するなら、相応の寄付をすることを強くおすすめする。
夕方、13か所すべてを回れたわけではないが、7か所の湯に入った。体は芯から温まり、皮膚がすべすべしている。帰りのバスの中で、次は泊まりがけで全13か所を制覇しようと密かに決めた。